秒速ファシネイト
艶やかな黒髪ボブに、茶色いフチの眼鏡。
白いブラウスのボタンは一番上までぴったりと留めてあった。
「ああ、来てたんだ」
慣れた手つきでやんわり女の肩に手を添える一条凪。
ま、まさか…!!
「…どしたの木村さん、後ずさりして。後ろ向きに歩いて帰る気?」
「んなわけないでしょっ!て、ていうか…一条凪…」
“彼女いたんだ?”
「珍しいねー、凪くんが女の子連れてくるなんて」
一条凪に抱き着いた女が一瞬だけ私に目を留めた。
だけどすぐに興味なさそうに視線を逸らす。
「残念ながらすぐに授業はじまるよ?」
「わかってるよ、せんせ」
…ん?
センセ?
「ああ、この人、俺の家庭教師」
一条凪が、またあの片方だけ口角を上げる独特の笑い方をする。