秒速ファシネイト
……は?
思わずそう、声に出すことも出来ずに固まった。
男子にこんなこと言われるのも。
男子からこんなに冷たい瞳を向けられるのもはじめてで。
少し長めの黒髪から覗く、温度のない漆黒の瞳に
ぞくり、背中を何かが這い上がる。
…なに、これ。なにこの人。
「使えば」
呆気にとられる私に、一条凪は手に持っていた折りたたみ傘を押し付けて
自分は黒い大きな傘を広げると、とっとと私を置いて帰っていった。
…どうしよう。
なんでか、雨の中を歩いていく、その背中から目が離せなくて。
…どうしよう。
どこまでも続く深い穴を落ちていくような感覚に、
「……やばい…
落ちた!!!」