秒速ファシネイト
「一条凪。さっきの数学だけど」
休み時間、私は遠く離れた一条凪の席までわざわざ足を運び、自席で文庫本を読んでいる一条凪に話しかけた。
「数学?」
一条凪が顔を上げる。
「うん」
私は頷いて、ノートを広げる。その時、お団子ヘアの、あえて出した後れ毛がサラリと顔にかかるのを意識する。
「授業の最後に、課題で出された問4。これであってるか確認してくれる?」
というのは口実で。
私の得意科目は数学。この問4も完璧な自信があるけど。
せっかく昨日の夜苦労して髪染めたんだから、
『へえ』の一言で済まされてたまるか。
「…うん、いいけど?」
そんな私の思惑など知る由もない一条凪は素直にノートに視線を落とす。
私は前の空いていた席に腰をおろして、一条凪の机に頬杖をついた。