秒速ファシネイト
……え。
「そ、それってどうゆう…」
「返すね」
一条凪が私の手元にメガネを返す。
慌ててそれをかけ直す。再びクリアな視界が戻った。
目の前で涼しい笑みをうっすらと浮かべる一条凪は、いつもの食えない一条凪。
さっきの、少し余裕なさげな切羽詰まった声は…気のせい?
「帰ろ。昨日のお返しに今日は送ってあげる」
「えっ…!……そう」
弾みそうになる声を慌てて抑えて涼しい顔で頷いた。
…ここで喜んだら私が一条凪、好きってバレる!
でも…心の中ではニヤニヤしてしまう。
やばい、今日も一条凪と帰れるの…多少かなりだいぶ嬉しいんだけど。
「…あと。
家庭教師のセンセとっくに結婚してるから」
「えっ…あ、そう」
だから喜ぶな私!
平常心よ平常心!!!
「………わかりやす」
そう、一条凪がボソ、と呟いたことに
私は気付かない。