秒速ファシネイト
「………ほんとに分かってないね、あんた」
少しの沈黙の後、一条凪が顔を逸らしたまま言った。
「は?何…」
よく聞こえなくて聞き返した私に、一条凪が逸らしていた顔を再び私に戻す。
「ていうか俺今日、お弁当なんだよね」
「…え!?」
「ていうかそもそも俺、毎日ほぼ弁当派。知らなかった?」
「知っ…」
らなかった。
「はは、やっぱりばかだねー、木村さんって」
「……」
否定できないのが恥ずかしすぎる。
でもここで黙っては…
木村麗美の名がすたる。
「あっそう。そっちこそばかなの?私が一条凪の昼事情なんて知るわけないでしょ」
勝手に購買派だと思い込んでたっ…!私もそうだし!
「いらないなら別にそれで。これは私が食べっ…」
「俺はばかだねって言っただけ」
一条凪が少し強引に、私からお弁当を奪い取った。
「もらわないなんて言ってないけど?」
「…っで、も。お弁当、持ってきたんじゃ」
「時に木村さん、自分の分のお弁当は?」
「……私はいつも購買だから」
一条凪ひとつぶんだけで、必死。自分の作る余裕なんてあるわけない。