短編
あたしと煙草とあなたの陰影
震える指先で煙草を揉み消した。呼吸がおかしい。まるで酸素が肺まで到達してないみたいで。耐え切れなくなってもう一本煙草に火をつけた。

時刻は23時を指して居る。電話もメールの一通すらこない。
賭をしようと決めたのは確か3日前だった。あたしの誕生日の3日前。

携帯のディスプレイを見る。メールも着信も、ない。あたしはイライラして携帯をベッドの上に放り込んだ。

あの人に彼女がいるかも,そんな噂を聞いたのが一か月前。
右手の薬指のシルバーリングを見たのがそれから一週間後。

解ってた。連絡なんて来るはずがない。それでも只縋り尽きたかった。

大きくため息をつく。白い煙がふわりと立ち上ぼるけれどあたしの気持ちは晴れない。

時刻は23時10分。タイムリミットはあと40分。
連絡が来なかったら、あの人からのプレゼントを捨てよう。
恋愛は自分一人努力しても報われないものだから。

せめて最後だけは潔くいたい。大丈夫,きっと忘れられる。

自分でも驚くほど冷静だった。ほら、あの人からの連絡を映し出さない画面を直視することが出来る。


きっともう連絡が来ることないのだろう。
半分諦めて、もう半分に期待をこめて。

部屋の電気を消した。
真っ暗になる室内。さっきまで吸っていた煙草の残り香。

明日になれば全てが変わっているのだろう。
ベッドに潜り込み、目を閉じた。

明日も仕事だし、あの人から連絡が来ない現実から逃げたかった。

夢の中は、きっと笑えるだろうから。

明日の朝、携帯を見て誕生日おめでとう
その一言のメッセージがあることを夢見て。


願わくば現実になりますように。



EnD
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