昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
 仕事を休みたくなくて出勤し続けるが、土曜になると朝起きるのも辛かった。
「ねえ、顔色が悪いわよ。大丈夫?」
 春子さんが仕事をしていた私を気遣って声をかけるので、「なんともないよ」と無理して笑顔を作ったが、うまく笑えない。
 気分が悪くなってトイレに行こうと椅子から立ち上がったら、キーンと耳鳴りがして身体がふらつき、周囲がグルグル回っているように見えた。
 ……すごく辛い。吐きそう。
 激しい頭痛にも襲われ、全身から力が抜けていく。
「凛!」
春子さんの声が聞こえたけど、覚えているのはそこまで。
 大きな黒い渦巻きが私を飲み込み、そのまま意識を手放した。

「……一万円の小切手です。彼女が起きたらうちへ連れて帰りますよ。後悔はしませんね」
 聞き覚えのある男性の声。
 誰の声だろう? それに小切手っていったいなんの話をしているの?
 そう考えていたら、すぐに父の声がした。
「後悔などしない。私にとってこれは大事な妻を殺した憎い女だ。いなくなって清々する」
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