昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
 その感触は夢ではなくまるで本物みたいだ。
 彼に話しかけたいけど、目も開かず声も出ない。
 思い通りにならない自分の身体。
 だが、それが夢というものなのかもしれない。
鷹政さんが出てくる夢ならずっと見ていたいな。
 それから温かい光に包まれて安心して眠っていたのだけれど、突然雷鳴が轟き、橋本清十郎の不穏な声が頭の中で聞こえて、ハッとした。
『もうお前は俺のものだ』
 全身に震えが走って飛び起きるが、橋本清十郎の姿はない。
 夢……か。
 そこは私の部屋ではなく白いベッドがひとつ置かれた殺風景な部屋だった。
 ただ、花瓶にピンクの薔薇の花が生けてあって、その美しさに心が癒される。
 前に薔薇はなんの役にも立たないようなことを琴さんに言ったけれど、私が間違っていた。
 薔薇を見ていると華やかな気分になる。
 この花は誰が生けてくれたんだろう。
 腕に点滴をされているということは、ここは病院なの?
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