昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
「大丈夫。のんびり休んでなんかいられないわ。でないと、屋敷を手放すことになるもの。それに、ずっと病院にいるとお金がかかるわ」
 弟にもうちの窮状を話すと、さほど驚きもせずに現実を受け入れる。
「うちの家計は相当厳しいんだね。でも、屋敷を手放すのはもう仕方がないんじゃないかな。屋敷を売ってどこかアパートか借家に引っ越すべきかもしれない。このままだと姉さんの身が持たないよ」
「だから私は大丈夫って……」
 私がそう言い張ると、直史はギロッと私を睨みつけた。
「どの口が言うかな? 働きすぎだから倒れたんだよ」
「でも、屋敷を手放したらお父さまが悲しむわ」
 弟に訴えるも、彼は皮肉を口にする。
「そのお父さまは昨日も競馬で金をすったみたいだよ。今日だって背広着て『ちょっと用事がある』って出てって姉さんの様子を見にも来ない」
 弟の話を聞いていつものことなのに少しがっかりする自分がいる。
 なのに、毎回思うのだ。
 いつか父は私を見てくれるって……。
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