昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
彼は私の目を見て楽しげに告げた。
「一万円で買った?」
 橋本清十郎の言葉に瞳が凍る。
「そう。君たちのお父さんはギャンブルで多額の借金をしてね。俺が立て替えてあげたんだ」
 彼の話を聞いて嘘を言ってるようには思えなかった。
「そんな……」
 ショックを受け呆然とする私に彼は同情するように言う。
「俺も伯爵に何度も確認したんだよ。凛ちゃんを俺の好きにしていいのか。だが、伯爵は凛ちゃんがいなくなって清々すると言ってた」
 あれは夢ではなかったんだ。
 父は私を橋本清十郎に一万円で売った。
 ハハッ……私ってバカみたい。
 父がいつか私に笑ってくれると望みのない期待を抱くなんて……。
 私は一生父に愛されることはないのだ。
 そう考えたら身体から急に力が抜けて、床にヘナヘナとくず折れた。
「姉さん!」
 そばにいた直史が血相を変え、私の身体を支える。
「心配しなくても大丈夫。伯爵は君をないがしろにしているようだが、俺は君に贅沢をさせてあげよう。洋服も宝石も、好きなだけ買ってやる」
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