昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
「残念だなあ。今度こそ凛ちゃんを手に入れたと思ったのに、すでに氷帝のものとはね。わかった。手を引くよ」
 両手をあげて降参のポーズをすると、彼は「ビジネスでは引かないからな」と鷹政さんに告げてこの場を去る。
「伊織、あいつに一万円の小切手を送っておけ」
 鷹政さんはそばにいた伊織さんにそう命じ、私に手を貸して立たせた。
 彼の言葉を聞いて思い出す。
 そうだ。橋本清十郎のもとに行かなくてもよくなったが、一万円もの借金が残ってしまった。一万円といったら家を買えるくらいの大金だ。私のお給料を全部返済に回しても完済するのに八年以上かかる。
 自分にそれだけの値段がついたことに喜ぶべきなのだろうか?
 そう考えて、涙が込み上げてきた。
「あの……一万円、働いて必ずお返しします。助けていただいてありがとうございました」
 上を向いて涙をこらえながら鷹政さんに伝える。
 とうとう私は父に捨てられてしまった。
 私の帰る家はもうない。それに……。
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