昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
 カーテンを閉め、凛の様子を見に彼女の寝室に向かう。
 昨日は寝る前に挨拶に来たが、今日は浴場のこともあってか俺の書斎に来なかった。
 部屋のドアを軽くノックするも、もう寝ているのか返事はない。
 そっと部屋に入ると彼女はベッドで寝ていたが、うなされていた。
「お父さま、なんでもしますから……」
 凛の額には汗が滲んでいた。
「凛、凛」
 彼女の肩を揺すって声をかけるが、すぐに目を開けない。
「売らないで……」
 涙が彼女の目からこぼれ落ちる。
 凛の心の傷は深い。
「大丈夫。俺がいる」
 凛の涙を手で拭いながら、語りかけるように言うと、彼女が目を開けた。
「鷹政……さん? また私……」
 俺を見てハッとした顔をする彼女の頬に手を当てながら頷く。
「ああ。うなされてた」
「す、すみません! お仕事の邪魔をしちゃったんじゃあ?」
 バサッと布団をはいでベッドから起き上がる凛に優しく微笑んだ。
「ちょうど終わったところだから問題ない。気分転換に散歩しないか?」
 
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