昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
 ふとそんな心配をする私に伊織さんは補足説明をした。
「鷹政さんは普段女性と話す時、用件以外は口にしないんですよ。唯一関心を持たれたのが凛さまで。幼馴染の弥生とだって無駄話はしません。本当凛さまがいてくれて……よかったです」
 感極まったのか、嗚咽をこらえながら話をする伊織さんの言葉が胸にジーンときた。
「私も鷹政さんや伊織さんたちに出会えてとても幸せです」
 心からそう言うと、ふたりは穏やかな目で微笑んだ。
 それから伊織さんが車を発進させたのだが、いつもと道が違うので不思議に思って鷹政さんに尋ねた。
「広尾の屋敷に帰らないんですか?」
「ああ。ちょっとだけ遠出しよう」
 私の目を見て頷く彼。
 遠出?
「どこに行くんですか?」
 首を傾げながらさらに質問すると、彼はどこか謎めいた笑みを浮かべた。
「内緒」
 しばらく車窓から見える景色を眺めていたが、緊張で昨日の夜よく寝付けなかったこともあって段々眠くなってきた。
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