昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】

　車はとある数寄屋造りの大きな建物の前で停まった。重厚な門構えで、『うめや』と書かれた木の看板が置かれている。
　確か葉山でも歴史のある温泉旅館だったような。
　そんなことを思いながら、鷹政さんと車を降りた。
　中から何人か人が出てきて、この旅館の女将らしき貫禄(かんろく)のある女性が「お待ちしておりました」と深々と頭を下げる。
「お世話になります」と鷹政さんが挨拶し、私も軽くお辞儀をした。
今夜はここに泊まるのだろう。
　鷹政さんが荷物を下ろしていた伊織さんを振り返る。
「伊織、また明後日迎えに来てくれ」
「はい。ゆっくり楽しんでください。凛さまも」
　伊織さんは私と鷹政さんにニコッと笑って再び車に乗ると、去っていった。
　女将さんの案内で玄関に入り、宿泊する部屋に向かう。
　部屋は二階の奥の部屋で十畳の和室がふた間とトイレと内風呂がついている。
　開放的な窓が印象的で、ウッドデッキがあって海が望める。
　きっと朝になったら、日の光で輝く海が見えるに違いない。