昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
「伊織、車を出してくれ!」
 それから車で病院に連れていかれ、産婦人科で診てもらうと「ご懐妊ですよ」と先生ににこやかに告げられた。
 帰りの車の中でまだ平らなお腹に手を当てていたら、彼が私の手の上に自分の手を重ねてきた。
「ここにいるんだな。俺たちの子が」
 感慨深げに言う彼。
 私も驚きと嬉しさがごちゃ混ぜになって、診断を受けてもまだ信じられなかった。
「なんだか夢を見てるみたいです」
 彼の赤ちゃんは欲しいと思っていたけれど、まさかこんなに早く妊娠するとは思わなかった。
「ふたりで大事に育てていこう」
 とびきり優しい目で私を見つめる彼に満面の笑顔で頷いた。
「はい」

 私が妊娠したことを姉と弟から聞いていたのか、この数カ月ずっと音信不通だった父から小包が届いた。
 中に入っていたのは真っ白な赤ちゃんの産着と【今まですまなかった】と父の筆跡で書かれたメモ。
 その産着とメモを見て胸に熱いものが込み上げてくる。ずっと父に冷たくされていたから嬉しかったのだ。
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