昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
 鷹は青山家の印になっていて歴代の当主は皆名前に鷹の文字がつく。
 青山家では後継ぎの男子が自分の伴侶を見つけたら、その女性に指輪を渡し、やがて子供が生まれたら、母から成人した息子に指輪を渡すというしきたりになっていた。
 大事な指輪なのは知っていたが、凛に元気になってもらうために渡すべきだとあの時思ったのだ。俺はあの指輪で強くなれたから。
「それはあの子が子供の頃にあげたんですよ。辛そうな顔で泣いていたから」
 今でもはっきりと覚えている。
 あれは葉山で父の通夜があった日のこと。
 浜辺を散歩していたら、凛に出会った。
 父とは年に一、二度、病院に見舞いに行って会う程度だった。顔を見せず、父の様子だけ見て帰った日もある。小さい頃優しかった父は交通事故で多くのものを失い、人が変わってしまった。気が短く、怒りっぽくなって見舞いに行くたびに父は俺の顔を見ると、持っていた本を投げつけた。
『今の俺を無様と思っているんだろう? もう来るな!』
 
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