昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
一緒に見舞いに来ていた祖父からは、『もうあれを父と思うな』と言われた。それ以来、父への愛情はずっと凍らせてきた。それでも見舞いに行ったのは、息子としての義務からだった。
 父が亡くなってそんなにショックは受けないと思っていたのだが、やはりじわじわと胸にくるものがあってひとりになるために浜辺に行ったのだ。
『私も夕日と一緒に消えちゃいたい』
 沈んでいく夕日を彼女はうつろな目で見つめていた。
 年は七、八歳くらいだったように思う。
 その悲痛な声に胸を打たれた。
『どうしてそんな悲しいことを言うの?』
 放っておくことができず、凛に声をかけた。
 すると、彼女が俺の方を振り返って、汚れのないまん丸の目で俺に尋ねた。
『あなたは天使さま?』
 艶やかな長い黒髪に目鼻立ちの整ったその顔。
 まだ少女であどけなかったが、将来必ず美人になることが容易に想像できた。
 どこかの良家の子なのか、水色のワンピースを着ている彼女の質問につい笑ってしまった。
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