昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
「最近桜色の服は着ていないけどね。私のことはいいの。パーティで素敵な殿方に出会えたらいいわね」
 お姉さまがお金持ちと結婚したら、うちの食卓も豪華になる。
 みんなが好きな牛肉だって毎日食べられるわ。
 私は変な妄想でいっぱいだけれど、姉は恋愛小説に嵌まっている割に現実的な発言をする。
「いい出会いなんてなかなかないわ。でも、お料理を楽しんでくるわね」
「お姉さま、頑張って!」
 素敵な人に出会えますように!
 姉の両手をしっかり握ってエールを送ると、私の勢いに気圧されたのか姉は引き気味に返事をした。
「あ、うん。まあ頑張るわ」
「おーい、まだか! 迎えが来たぞ」
 階下から父の声がしたと思ったら、直史も姉の部屋にやってきた。
「葵姉さん、もう準備できてる? あんまり待たせると父上の機嫌を損ねるよ」
 直史は黒の背広を着ていて、いつも学生服姿に見慣れているせいか大人びて見える。
「今日は時間通りよ」
 弟に向かってゆっくりと微笑む姉。
「行ってらっしゃい。楽しんできて」
 
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