不器用な恋〜独占欲が恋だと知ったのは君のせいだ

彼が触れる手も唇も、全て私だけであって欲しい。

内に溜まるモヤモヤをお酒で紛らわすのだった。

しばらくして、私の上司で、恋人未満でありセフレ以上の関係になる大小路 聖也さんが店に入ってきた。

当たり前のように、隣に座って、当たり前のようにマスターに『いつもの』と言う。

「お疲れ様です」

「香恋もお疲れ様」

私の頬を指の甲で撫でる仕草と、眼差しは、とても甘く、躊躇わずにはいられない。

「名前呼んでくれないの?」

名前を呼ぶのは、なかなかハードルが高く、まだ、数回しか呼べてない。

「俺、彼氏だろ?」

「いつから、私の彼氏になったんですか?」

可愛くない物言いだとわかっている。

わかっているけど…

そうさせるのは、この人だ。
彼氏と言うくせに、好きだとか付き合おうとか、なかなかほしい言葉を言ってくれないので…

私の中では、まだ、恋人にはなれていない。

「酷いな」

そういいつつ、カウンターの下で手を繋いできて、手の甲を親指で撫でてくる。

振り払えばいいのに、払えないのは彼が好きだからで…

素直になれずに頬を赤らめることしかできない。

グラスビールが出てきて、渇いていた喉に流す勢いで喉仏が動く。そんな姿にときめくのは、彼に恋しているからだろう。
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