不器用な恋〜独占欲が恋だと知ったのは君のせいだ
振り向いてほしいとか

彼女になりたいとか

付き合いたいとか

そういうことじゃなくて、

片思いが報われたかったわけでもなく、

彼を好きでいることができればよかった。

それが、今では欲張りになっている。

思わせぶりな態度や言葉だけじゃ、足りない。

彼氏だろって言えるなら、好きって言ってよ。

一人暮らしを始めたマンション 302号室の私の部屋のドアの前で足を止めた。

んっ?どうしたと振り返る聖也さん。

繋ぐ手を優しく引き寄せようとするが、私の足は動かない。

「…おいで」

甘さのある優しい声で、誘惑する。

でも、私の足は動かない。

「香恋?」

「聖也さんは、ずるい。私の好きな気持ちを利用しないで。ちゃんと言葉にしてよ」

感情が昂っていたせいで、涙が頬をつたっていく。

ただ、好きでいたかったのに、もう、この温もりを手放せないほど、堕ちて、抜け出せないほど彼に夢中。

だからお願い…

「好きなの…聖也さんが好きなの」

私をぎゅっと抱きしめる胸を何度も叩いた。

私の頬を両手で掴み、顔を覗くように屈んだ聖也さん。

「ごめん。泣くなよ…」

私の涙を拭う指先は優しいのに、謝られたことにショックを受けていて、気がつかない。
振られるのかと…涙がどんどん溢れてくるのだ。
< 126 / 183 >

この作品をシェア

pagetop