不器用な恋〜独占欲が恋だと知ったのは君のせいだ
マンションの302号室の部屋のドアの前で足を止めた香恋。
どうした?
いつもなら、このままついて部屋まで来るのに。
「…おいで」
俯いて動こうとしない。
「香恋?」
名前を呼ぶと、泣いていた顔をあげた。
「聖也さんは、ずるい。私の好きな気持ちを利用しないで。ちゃんと言葉にしてよ」
かれんの声が震えていて、必死なのだと。
思わず、抱きしめていた。
「好きなの…聖也さんが好きなの」
胸を何度も叩いて、訴えてくる。
彼女の頬を両手で掴み、顔を覗くように屈んで、涙を拭ってやる。
「ごめん。泣くなよ…」
泣くほど、言葉が必要なのか?
泣かせたいわけじゃない。
言葉がほしいなら、言うから…
「ちゃんと言うから、泣きやんでくれよ」
大きく息を吸い込む。
誰にも言ったことのない言葉を口にするには、緊張する。
「好きだ。大切にする。だから、恋人として付き合ってください」
かっこいい決めゼリフなんて、出てこない。
思った言葉を、並べただけの言葉に、香恋は、泣き顔で嬉しそうに笑い返事してくれた。
「はい」
今更、照れくさいとか誤魔化していたが、言葉にする勇気がないだけだった。
どれだけ、不安にさせてたのだろうか⁈