不器用な恋〜独占欲が恋だと知ったのは君のせいだ
「彼氏って言いますけど、なんの言葉も聞かせてもらってません。セフレの間違いじゃないんですか?」
「前の自分はどうしようもできないけどさ…今は、香恋だけだよ」
「そんな軽い感じで言われても、嬉しくありません」
「どう言えば満足するんだ?」
「本当にわからないんですか?」
この胸の中にあるわだかまりを理解してもらえない苛立ち。
ただ、言葉がほしいのに…
贅沢な悩みなのでしょうか?
ぷっとカウンターの向こうのマスターが吹き出して、すぐに真顔に変えるが、聞かれていたのは確かで、恥ずかしさに居た堪れず席を立った。
歩き出そうとした手を引かれて、抱き留められる。
「何、怒ってるんだ?」
マスターからの生暖かい視線が痛く、彼の胸を押し、カウンターにお金だけを置いてお店を出た。
「…待てよ。一緒に帰ろう」
だが、すぐに追いかけて来た彼に捕まり、一緒に帰ることになる。
隣に並んで、自然と手を繋いでくる。
それが嬉しいのに、辛い。
気づかれないよう、少し顔を隠すように俯き、半歩下がって隣を歩く。
ずっと、好きだったこの人と、手を繋いでいることも。
同じ道を一緒に帰ることになることも。
想像さえできなかった。
ただ、一心に好きだった。