不器用な恋〜独占欲が恋だと知ったのは君のせいだ
振り向いてほしいとか
彼女になりたいとか
付き合いたいとか
そういうことじゃなくて、
片思いが報われたかったわけでもなく、
彼を好きでいることができればよかった。
それが、今では欲張りになっている。
思わせぶりな態度や言葉だけじゃ、足りない。
彼氏だろって言えるなら、好きって言ってよ。
一人暮らしを始めたマンション 302号室の私の部屋のドアの前で足を止めた。
んっ?どうしたと振り返る聖也さん。
繋ぐ手を優しく引き寄せようとするが、私の足は動かない。
「…おいで」
甘さのある優しい声で、誘惑する。
でも、私の足は動かない。
「香恋?」
「聖也さんは、ずるい。私の好きな気持ちを利用しないで。ちゃんと言葉にしてよ」
感情が昂っていたせいで、涙が頬をつたっていく。
ただ、好きでいたかったのに、もう、この温もりを手放せないほど、堕ちて、抜け出せないほど彼に夢中。
だからお願い…
「好きなの…聖也さんが好きなの」
私をぎゅっと抱きしめる胸を何度も叩いた。
私の頬を両手で掴み、顔を覗くように屈んだ聖也さん。
「ごめん。泣くなよ…」
私の涙を拭う指先は優しいのに、謝られたことにショックを受けていて、気がつかない。