不器用な恋〜独占欲が恋だと知ったのは君のせいだ
「お先に失礼します」
皆が帰って行く中、顔をあげる時間も惜しいのか、「お疲れ様でした」と声だけの挨拶に、少し寂しくなっていた。
門をくぐり、私と反対方向の優香が腕を掴んできた。
「香恋、飲みに行くよ」
「えっ、拒否権は…」
「ないね。いろいろと聞きたいし、聞かないと寝れないわ」
「…うん。わかった。その前に、ちょっとだけ待ってて。主任に会ってくる」
コンビニを指差した。
「あーそういうこと。いいけど…ここで待ってるわ」
優香と約束した私は、隣にあるコンビニに駆け込み、缶コーヒーと惣菜パンを買って、来た道を戻ったのだ。
経理課に灯る明かりに、そっとドアを開けると、主任は、まだ、仕事中で気がつかない。
邪魔しちゃいけないと思っていたら、ふと顔をあげて驚いている。
「如月…忘れ物か?」
「いえ…あの…これ、差し入れです」
驚いた顔の後、顔を綻ばせ手招きする主任に呼ばれて側まで行くと、なぜか、デスクの端に座らされる。
「なんの差し入れ?」
中身を見て、喜ぶ主任。
「俺の好きな惣菜パン。コーヒーもいつも飲んでるやつじゃん。ありがとうな」
「喜んでもらえてよかったです。じゃあ…」
デスクから降りようとしたら、引き留められる。