てのひらサイズの世界の中に
「明日晴れるかな」
君が呟いた。
空も見ずに言うものだから、私が変わりに見上げると綺麗なオレンジをした夕焼けだ。
これぞまさに絵に描いたような夕焼け。
「明日は晴れるよ。こんなに綺麗な夕焼けだもの」
優しいオレンジは校庭に差し込み、グラウンドを駆け巡る運動部員たちを黒く染める。
どことなくノスタルジックで、これが哀愁なるものかと僅か13歳の私が思うのは滑稽だろうか。
「朝焼けは雨、夕焼けは晴れ。って、言うでしょ?」
「知らないよ、そんな言葉。ばばくさ」
「口が悪いね、ほんと。仕方がないでしょ、実際ほとんどじいちゃんと過ごしてるんだから」
母子家庭で母と折り合いが悪く、可愛がってくれるじいちゃん家に入り浸っている私は、親子の縁だとか血の繋がりだけで“絆”だとか“無償の愛”だとか盲目的に信用して仲睦まじい家族を見ると反吐が出そうになる。
「喧嘩しても仲直りできるよ、だって家族だもん」と言った子がいた。それは家族というものに恵まれだからこそ言える言葉だ。なにより家族と言う物を盲信しすぎだと思う。
裏を返せばそれはいわば血の呪いじゃないか。
何があったって最終的に“家族だから”。良いことも、悪いことも“家族だから”が纏わりつく。
「私はあの人と世間で言うところの仲睦まじい親子になることをもう諦めたけど、君は違うんでしょう?」
暗い影がその顔に落ちる。
「君が言ったんじゃない。“信用する誰かを決めるのは自分自身だ”って。ちょっとケチを付けられたくらいで揺らぐ信用なら端から信用してないってことだ」
「そんなことない!」
間髪入れずに返ってくる答えに、少し胸を撫で下ろしたのは私だけの秘密だ。
私は何だかんだで、きっと期待しているのだ。
この家族がぶつかり合いながらも丸を描き穏やかな絆を得ることを。
盲目的ではなく、手探りで、泥だらけになりながら手に入れる家族というものを。
多分、それを見ることができたなら、私にも無数に広がる未来の1つにもしかしたら……
***
君に話しかけたのは、本当に自分勝手な理由だったと思う。
再婚同士、連れ子同士の4人家族。その家族構成をなんの衒いもなく言ってのけるその姿をちょっとひやかすくらいの気持ち。
「寄せ集めの家族だね」
そういった私に、君は何を感じたんだろうか。
多分君は、私が昔から今もなお感じている(認めたくはないけれど)孤独感なんてものを既に超越していて、だからあんな言葉を言ったんだろう。
「どんな家族だって所詮は他人同士の寄せ集めだって」
あまりの物の言い様に、話していた私はおろか周りにいた子たちさえ驚いていた。
そして家族中の良いのだろう、そこに居た誰かが起こったように言ったのだ。
「喧嘩しても仲直りできるよ、だって家族だもん」
家族だから。という理由が成り立つのはどうなのかと疑問を持つ。けれどそれに反論できる理由もない。13歳とは、きっとそういう年齢だ。少なくとも、私は。
「実の親子だって考えが全部“同調”してるわけじゃないんだから、他人だよ。他人」
きっぱりと清々しく言い切ったことで周りは二の句を失い、おそらく君に失望し、私は君に俄然興味を持った。
故に私達は、所謂クラスの除け者扱いにされたのだろう。これ以後すっと人気が引いた。
「……だから、他人だからこそ、だよ」
ぼそっと言った声を聞いたのはだから多分、私一人で。君が憧れ求め、もがいている事を知るのもクラスでは私一人だ。
「家族でさえも他人なんだから、信用する誰かを決めるのは自分自身だ。そしてちゃんと、僕は家族を信用してる」
寄せ集めの家族だとしても。
君が呟いた。
空も見ずに言うものだから、私が変わりに見上げると綺麗なオレンジをした夕焼けだ。
これぞまさに絵に描いたような夕焼け。
「明日は晴れるよ。こんなに綺麗な夕焼けだもの」
優しいオレンジは校庭に差し込み、グラウンドを駆け巡る運動部員たちを黒く染める。
どことなくノスタルジックで、これが哀愁なるものかと僅か13歳の私が思うのは滑稽だろうか。
「朝焼けは雨、夕焼けは晴れ。って、言うでしょ?」
「知らないよ、そんな言葉。ばばくさ」
「口が悪いね、ほんと。仕方がないでしょ、実際ほとんどじいちゃんと過ごしてるんだから」
母子家庭で母と折り合いが悪く、可愛がってくれるじいちゃん家に入り浸っている私は、親子の縁だとか血の繋がりだけで“絆”だとか“無償の愛”だとか盲目的に信用して仲睦まじい家族を見ると反吐が出そうになる。
「喧嘩しても仲直りできるよ、だって家族だもん」と言った子がいた。それは家族というものに恵まれだからこそ言える言葉だ。なにより家族と言う物を盲信しすぎだと思う。
裏を返せばそれはいわば血の呪いじゃないか。
何があったって最終的に“家族だから”。良いことも、悪いことも“家族だから”が纏わりつく。
「私はあの人と世間で言うところの仲睦まじい親子になることをもう諦めたけど、君は違うんでしょう?」
暗い影がその顔に落ちる。
「君が言ったんじゃない。“信用する誰かを決めるのは自分自身だ”って。ちょっとケチを付けられたくらいで揺らぐ信用なら端から信用してないってことだ」
「そんなことない!」
間髪入れずに返ってくる答えに、少し胸を撫で下ろしたのは私だけの秘密だ。
私は何だかんだで、きっと期待しているのだ。
この家族がぶつかり合いながらも丸を描き穏やかな絆を得ることを。
盲目的ではなく、手探りで、泥だらけになりながら手に入れる家族というものを。
多分、それを見ることができたなら、私にも無数に広がる未来の1つにもしかしたら……
***
君に話しかけたのは、本当に自分勝手な理由だったと思う。
再婚同士、連れ子同士の4人家族。その家族構成をなんの衒いもなく言ってのけるその姿をちょっとひやかすくらいの気持ち。
「寄せ集めの家族だね」
そういった私に、君は何を感じたんだろうか。
多分君は、私が昔から今もなお感じている(認めたくはないけれど)孤独感なんてものを既に超越していて、だからあんな言葉を言ったんだろう。
「どんな家族だって所詮は他人同士の寄せ集めだって」
あまりの物の言い様に、話していた私はおろか周りにいた子たちさえ驚いていた。
そして家族中の良いのだろう、そこに居た誰かが起こったように言ったのだ。
「喧嘩しても仲直りできるよ、だって家族だもん」
家族だから。という理由が成り立つのはどうなのかと疑問を持つ。けれどそれに反論できる理由もない。13歳とは、きっとそういう年齢だ。少なくとも、私は。
「実の親子だって考えが全部“同調”してるわけじゃないんだから、他人だよ。他人」
きっぱりと清々しく言い切ったことで周りは二の句を失い、おそらく君に失望し、私は君に俄然興味を持った。
故に私達は、所謂クラスの除け者扱いにされたのだろう。これ以後すっと人気が引いた。
「……だから、他人だからこそ、だよ」
ぼそっと言った声を聞いたのはだから多分、私一人で。君が憧れ求め、もがいている事を知るのもクラスでは私一人だ。
「家族でさえも他人なんだから、信用する誰かを決めるのは自分自身だ。そしてちゃんと、僕は家族を信用してる」
寄せ集めの家族だとしても。