令和最愛授かり婚【元号旦那様シリーズ令和編】
女医さんは、私が未婚なのをカルテで確認しているから、まず産むかどうか、私の意志を訊ねた。


近年、女性の生き方だけでなく、夫婦の在り方も多様化している。
私のように妊娠がおめでたくない女性も、子供を欲しがらない夫婦も、きっとたくさんいるはずだ。


だから、私がここで『産めません』と即答しても、決して珍しくはない。
だけど……。


「考えさせてください……」


考えるまでもなく、答えは決まっているのに、私はそう濁した。
こういう反応も多いのだろう。
女医さんは、無表情のまま軽い相槌を打つ。


「わかりました。パートナーの方とよく相談して、決めてください」


カルテに〝出産意志:保留〟と入力しているのが、キーボードに走らせる指の動きで、なんとなく掴めた。


「……はい」


ほとんど惰性でそう返事をしたものの、ここに来て初めて、事態を直視できた。


――パートナー。
どうしよう……。


次の診察の話も待たず、そそくさと椅子から腰を浮かせる。


「あ、安達さん」


女医さんが、パソコンモニターから目を離し、私を見上げてきた。


「一応、こちらの用紙も渡しておきます」


差し出されたA4用紙を、機械的に受け取って――。


「もし中絶されるなら、母体の安全のためにも、十一週までをお勧めします」

「…………」


〝人工妊娠中絶手術同意書〟と題打ったシンプルな書式を目にして、私の頬の筋肉がヒクッと痙攣した。
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