叶わない、それでも……
貧乏な家の人間を護ることになると、まるで映画を観ているようなスリルが味わえるんだ。貧しさを抜けるために盗みをするのは当たり前、詐欺に強盗にクスリ、殺人に手を染める奴もいる。根っからの悪人を見護ることになると、どれだけこっちが力を使って止めようとしても無駄なんだよね。

それに引き換え、金持ちの人生はどうだ?金があるから何でも手に入る。犯罪にわざわざ手を染める必要なんかない。弱者を見下し、自慢だけ飛び交うパーティーを開き、男は家を継いで女はどこかいい名家に嫁いで人生が終わってく。

「まあ、コイツが大人になって男と経験することの瞬間だけ楽しみにしておくか」

天使が聞いていれば怒鳴りつけられていただろう。まあ、あの連中が騒いだところで何とも思わないけどな。

僕は羽を羽ばたかせ、魔界から人間界へと向かう。どんなつまらない人生を見届けることになるのか、とあくびを何度もしながら。



クララの家である大きな屋敷の庭に降りる。金持ちらしく、庭も細部にまでこだわっていた。自慢のためなのか、この国では珍しい花も植えてある。

「さて、クララはどこにいるんだ?」
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