Dear my star


 「真佳、ちょっとこっち」


 お兄ちゃんは私の手首を掴むと、非常階段の影に引っ張った。

 とん、と背中に壁が触れる。私の耳の横に手を付いたお兄ちゃんに、心臓がまたうるさく鼓動し始める。


 「本当に違うから」

 「え……?」

 「長谷川が言ってたこと」


 直ぐに『どうせふわふわ髪の一年の彼女とおデートなんだろ?』という言葉が頭の中で再生された。


 「あいつが勝手に騒いでるだけで、凛とはそんなんじゃないから」


 はじめてお兄ちゃんの口から知らない女の子の名前が出た。

 お兄ちゃんのことを信じたいのに、素直に笑って「分かった」と頷けない自分がいる。



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