全身全霊、きみが好きだ!
「よかった」
そう言って、ふわりと微笑む月島さんは、やっぱり、ずるい。分かってる。この「よかった」は、彼女がいなくてよかったじゃなくて、いないならトラブルにならないね、の「よかった」なんだってこと。でもこんなの、樋爪の存在を知らなければ勘違いするし、自惚れもするに決まってる。
落ち着け、俺。顔に集まりつつある熱を逃がそうと、それとなく不自然にならないように視線を前方に向け、「てかさ、」と音を吐き出した。
「何か、その、あったから、寄り道、したんだろ?」
「……え」
「その、話したいこと、とか……相談? みてぇな、その、」
「はは……バレてたんだね……そんなに私、分かりやすかったかな」
彼女の口からこぼれる、乾いた笑い声。分かりやすいというよりは、俺が何となく感じ取れただけ。自分以外の兄妹が女ばかりだと自然とそうなってしまう。なんせあいつらは「言わなくても分かってよ!」星人だから。
「……あのね、将冴のこと、なんだけど、」
だけど、今は、今だけは、些細な変化になんて気付けない、鈍感な人間でいたかった。
やっぱり、あいつのことか。ちらりと彼女を盗み見て、すぐに視線を戻す。その儚げな横顔さえ、美しいと感じる俺はわりと酷い人間なのかもしれない。
「……え、とね……その、どこから話せばいいのか、その……ちょっと、難しいんだけど、」
彼女が笑っていてくれれば、それでいいと思っていた。好きな人が幸せそうにしていれば、俺だって幸せな気持ちになれている気がしたから。
「……樋爪のことなら、ごめん……俺、知ってる」
「……え」
「いや、本当……知ったのはついさっきで、しかもその、悠真からの情報なんだけど」
「雨水くん、の……?」
「うん」
でも、違った。
気がしてた、だけだった。