全身全霊、きみが好きだ!

 ヒートアップしたからか、いつの間にか月島さんは立ち上がっていて、ものすごい至近距離で樋爪にメンチを切っていた。否、正確には月島さんは後ろ姿しか見えないからどんな表情かは憶測でしかないのだけれど、彼女のすぐ向こう側で樋爪が眉間に深いシワを刻んで目尻をこれでもかと吊り上げていたから、おそらく睨みあってるんだろうなと予想した。
 月島さん、怒鳴ったりするんだな。ぽやりと呑気にそんなことを思う。しかしそれよりも何よりも気になったのは、樋爪の口からも、月島さんの口からも、至極当然のように飛び出てきた第三者の名前だ。

「あ、あのさ、ふたりとも、」
「っんだよヘタレが! ちょっと黙ってろ!」
「浮気がバレたからって海鋒くんに八つ当たりしないでよ!」

 しかし取り付く島がない。その様は、服を勝手に着ただの靴を勝手に履いただのマスカラを借りパクされたただの、もはや日課のように言い争ってる妹達ようで思わずため息がもれた。
 ああ、もう。

「ストーップ!! 終了! 終了! 落ち着いてくんねぇかな二人とも!」

 右に月島さん、左に樋爪、という立ち位置になるようにふたりの間へ割り込み、意図して大きな声をだす。我ながら困った性分だ。その内、シャレにならないことに巻き込まれそうだから早いとこ直したい。

「俺が口出すようなことじゃないのかもしんねぇけどちょっと確認させて。あのさ、ふたりは付き合ってんだよな? んで、今は痴話喧嘩の真っ最中なんだよな? んで、オウカちゃん? ってのはどちら様?」

 右から左へ視線を流し、そして左から右へと視線を戻しながらふたりに問う。どちらが答えてくれても構わないのだけれど、樋爪は「てめぇにゃ関係ねぇだろうがくそカスが!」とかなんとか言いかねないな。

「あ"ぁ?」

 なんて思っていれば、案の定、左側から物騒な低音が鳴り響いた。
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