全身全霊、きみが好きだ!
外観からして何となく想像はしていたけれど、玄関口からの廊下からの通された応接間もなかなかの絢爛さだった。
金持ちなんだな。いや見りゃ分かるレベルなんだけど、そんな感想しか出てこない。「着替えてお茶もいれてくるね」と微笑んでくれた月島さんを何度も脳内でリピートしながら、革張りのソファの上でひとり縮こまる。
落ち着かない。けど、落ち着かなきゃいけない。ややこしい関係って、何なんだろう。絶対俺が首を突っ込んでいいようなものじゃない気がするけど、後戻りなんてさせてもらえないのだろう。ああ、痛い。胃が痛い。キリキリと痛んでるような気がする腹をすりすりとさすりながら、窓際に置かれている花瓶とそこに生けられている花をぼんやりと見つめた。
「お待たせ、海鋒くん」
何て花だろう。
花に詳しくないから分からないなと思っていれば、ガチャリと開かれた応接間の扉。私服に着替えた樋爪が扉を開けていて、そこを、両手で銀色のトレーを持った同じく私服に着替えた月島さんが歩いてくる。トレーにはおもてなしのテンプレート、クッキーとティーカップとティーポットが乗せられていた。
かたり、かちゃり。月島さんはクッキーをテーブルの中央に置いて、ティーカップをそれぞれの前に置く。対する樋爪は、どかりとテーブルを挟んだ俺の向かい側へと腰をおろして、左手に持っていたものを自身の前に置いた。
ふたつ同じものが重ねられた、白くて、正方形で、分厚くて、表面にファンシーな熊っぽいものが見えるそれは、もしかしなくても子供の頃のアルバムなのだろうか。
「見てぇか?」
「え」
「アルバム」
とぽとぽ、とぽとぽ。
ティーポットからティーカップへと赤褐色の液体が注がれる音を聞きながら、樋爪が指差したそこへと視線を落とした。