追放された大聖女は隣国で男装した結果、竜王に見初められる
「フェリシア・ツェート! 貴様は聖女の風上にも置けない悪女だ。聖女と偽った罪は重い。よって、国外に追放するものとする!」
王家主催の舞踏会で突然行われた断罪に、真っ先に抗議したのはツェート子爵だった。
「王太子殿下! あなたも聖女の術の効果をその目で見たはずです。娘の力は本物です。それを――」
「本物の聖女ならば、ソフィーに悪質な嫌がらせなどするものか。証言も証拠も揃っている。……そうだろう、ソフィー?」
ルミール王太子は横にいた金髪碧眼の美しい令嬢に同意を求めた。
ソフィーはフェリシアと目が合うと、びくりと身を震わせた。獣から必死に身を守るうさぎのような反応に、これが演技なら表彰ものだと感心する。
(冤罪で国外追放されるのはわかっていたけど、これは一体、何の茶番なのかしら)
当然ながら、フェリシアはソフィーに嫌がらせなどしていない。
ルミール王太子と仲良くしている伯爵令嬢がいるとは聞いていたが、してもいない悪事の首謀者だと言われるとは、さすがに想像していなかった。
「……フェリシア様は、私が視界に入ると、ここでは言えないような辛辣なお言葉を投げかけてきました。私、どうしてそんなに嫌われているのか、わからなくて……。弁解の機会を設けようとしたのですが、聞く耳を持ってくださらなくて……」
鈴を転がしたような声が響き、周囲の目が一斉に冷たいものに変わる。
どう考えても、状況はこちらが圧倒的に不利だ。
社交界において、真実は権力者の望む方向へ、いともたやすく歪められる。嘘が誠になるのだ。自分より目上の者に追従する姿勢が、貴族社会で生き延びていくコツである。
要するに、フェリシアの味方はいない。先ほどは抗議した父親でさえ、今は口を閉ざしているのがいい証拠だ。
「何か申し開きはあるか」
威圧的な言葉に、フェリシアは首を横に振った。
「それが殿下のお望みでしたら……」
「もう二度と顔を見ることもあるまい。どこへなりとも行くといい」
「かしこまりました。失礼いたします」
ルミール王太子のもとに、中央の貴族たちがごますりに近寄っていく。フェリシアはさっさと踵を返した。
元婚約者への未練など、もうなかった。
王家主催の舞踏会で突然行われた断罪に、真っ先に抗議したのはツェート子爵だった。
「王太子殿下! あなたも聖女の術の効果をその目で見たはずです。娘の力は本物です。それを――」
「本物の聖女ならば、ソフィーに悪質な嫌がらせなどするものか。証言も証拠も揃っている。……そうだろう、ソフィー?」
ルミール王太子は横にいた金髪碧眼の美しい令嬢に同意を求めた。
ソフィーはフェリシアと目が合うと、びくりと身を震わせた。獣から必死に身を守るうさぎのような反応に、これが演技なら表彰ものだと感心する。
(冤罪で国外追放されるのはわかっていたけど、これは一体、何の茶番なのかしら)
当然ながら、フェリシアはソフィーに嫌がらせなどしていない。
ルミール王太子と仲良くしている伯爵令嬢がいるとは聞いていたが、してもいない悪事の首謀者だと言われるとは、さすがに想像していなかった。
「……フェリシア様は、私が視界に入ると、ここでは言えないような辛辣なお言葉を投げかけてきました。私、どうしてそんなに嫌われているのか、わからなくて……。弁解の機会を設けようとしたのですが、聞く耳を持ってくださらなくて……」
鈴を転がしたような声が響き、周囲の目が一斉に冷たいものに変わる。
どう考えても、状況はこちらが圧倒的に不利だ。
社交界において、真実は権力者の望む方向へ、いともたやすく歪められる。嘘が誠になるのだ。自分より目上の者に追従する姿勢が、貴族社会で生き延びていくコツである。
要するに、フェリシアの味方はいない。先ほどは抗議した父親でさえ、今は口を閉ざしているのがいい証拠だ。
「何か申し開きはあるか」
威圧的な言葉に、フェリシアは首を横に振った。
「それが殿下のお望みでしたら……」
「もう二度と顔を見ることもあるまい。どこへなりとも行くといい」
「かしこまりました。失礼いたします」
ルミール王太子のもとに、中央の貴族たちがごますりに近寄っていく。フェリシアはさっさと踵を返した。
元婚約者への未練など、もうなかった。