義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます～たくさんの好きをあなたに～

「なにか用事？」
　梓は何気なく聞いた。なにかお父さんやお母さんからの伝言とか、あるいはなにか借りたいとか、そういう軽い用事だろう。
　けれど渉は何故か「いや、」と言葉を濁した。
　それだけではなく、なんとなく気まずそうな様子を見せる。
　梓は不思議に思ったけれど、「お部屋に入る？」と渉を誘った。立ったまま、廊下のドアを開けたままでは話しづらいことなのかと思って。
　けれど渉はまた「いや、いいよ」と言った。
　じゃあ、どうしよう。待ってたらいいのかな。
　梓は思ったけれど、渉はすぐに要件を言ってくれた。けれどそれはよくわからないことだった。
「合同合宿。お前、夜、予定はあるか？」
「夜……？」
　合同合宿の夜は、花火大会をすることになっていた。もちろん、学校や運営委員会の決めたスケジュールで、である。
　合宿所の近くにある川で、ちょっとした打ち上げ花火もできると聞いていたので楽しみだったのだ。
「夜は花火じゃないの？」
　なのでそれをそのまま言った
　それより渉は運営委員会とひんぱんにやりとりをして、スケジュールの把握なんか完璧だろうに。それでどうしてこの質問。
「いや、そのあとだ」
　渉が言ったことに、梓はもっとわからなくなってしまう。首をかしげそうにすらなった。
「そのあと……？　お風呂に入って、お部屋で寝るんでしょ？」
　当たり前のことを言った。そういうスケジュールなのは本当であるので。
　けれど渉はそれを否定した。それは優等生の渉らしくないことであったので梓は違う意味で驚いてしまった。
「あまり褒められたことじゃないけど、友達同士で抜け出す子とかいるんだよ」
「えっ、そんなことしていいの？」
「いや、ダメだけど。でも合宿ってことでそういう計画を立てる子たちもいるからさ」
　やはり優等生の渉らしくない。禁止されていることを自ら口に出すとは。自分はそんなことしないだろうに。