義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
合同合宿のスタート
 合宿の日は快晴だった。暑いのはどうしようもないけれど、雨よりはずっといい。
 しっかり帽子をかぶって、動きやすいパンツスタイルの服を選んで、梓は合宿へ向かった。
 出発は学園から。みんなでいったん集まって、そこからバスでまとまって合宿所へ行くのだ。
「ねぇねぇ、今年はなにかあるかなぁ」
 バスの中で、仲のいい友人同士でひそひそ話がはじまったとき、梓は疑問を覚えた。今年はなにか、とは。
 でもすぐに理解した。昨夜、渉が釘を刺しに来たことだ。
 夜、抜け出したりすること。具体的になにをするのかはわからない。外へ行って楽しいものだろうか。
 けれどなんだか、渉のくちぶりといい、この合宿では割合恒例行事になってしまっていることのようで。
 もちろんそんなことは先生たちに知られるわけにはいかないから、こうしてこそこそ話すのだけど。
「なにかって、どういうことをするの?」
 切り出したつぐみに梓は質問した。つぐみはちょっと悪戯っぽい目をして、梓に顔を近付けた。
「そりゃ、好きなひとに会いに行ったりだよ」
 耳から小さな声で聞こえたこと。梓はどきっとしてしまう。
 なるほど、そういうこと。
 確かに合宿の夜に会えるなんて、特別感があって素敵だろう。もしかしたら、そのまま告白とか、そういう……。
 考えて恥ずかしくなってしまったけれど。乙女チックではあるけど、そんなふうにされたら女の子は嬉しいだろうなぁ、なんて思ってしまい。
「雲雀は小鳥遊先輩のところに行くの?」
 雲雀の横にいた秋奈が質問して、梓は今度、違う意味でどきっとしてしまう。渉の名前が出たことで。
「うーん、行きたいけど……いきなり行ったって会えるかわからないし……」
 雲雀は悩ましい、という顔をした。
「まぁでも、花火のときとか少しでもお近づきになれたらいいやって」
 にこっと笑って雲雀はポジティブなことを言った。確かに花火も『夜の行事』であるし。
「そうだね。一緒に線香花火とかできたらいいよねー」
「ね! ロマンチックだよねぇ。そっちを期待しとこ!」
 友達たちはきゃあきゃあと話しだして、梓もそれに混ざった。
 打ち上げ花火は、花火大会に比べたらとんでもないけれど、それでもプロの花火師さんがきてやってくれる、それなりのものなのだと。
 それとは別に、手持ち花火や線香花火もできて、二度おいしいのだと。
 そして、この合宿で線香花火をして、花火の玉を落とさなかったら恋が叶うと。そういうおまじないもあるらしい。
 だから頑張らないとね! と雲雀は言っていたし、梓もそれは楽しそうだと思った。
 おまじないは100%叶うものでも、具体的な行動でもない。けれど単純に楽しいものだし、恋が叶うように願うことで、自分の気持ちをもっと確かめることができる。
 なのでみんなで集まってそれをやろう、という計画に移っていく。
 そんな話で盛り上がるうちに、バスは梓たち慶隼学園の生徒を合宿所に順調に連れていってくれたのだった。
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