義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
線香花火に願いを託し
 バーベキューも終わり、生徒全員で片付けて。食休みをした頃にはあたりはすっかり暗くなっていた。
 夜は花火大会。小規模なものだが花火師さんがきて、対岸で打ち上げ花火をしてくれる。
 今回は、あちこち移動して見るというわけにはいかなかった。それではせっかくの打ち上げ花火もかすんでしまうだろう。
 お兄ちゃんはどこにいるのかな。
 ちらっとあたりを見回すと、渉は今度、男子生徒たちといた。同級生かクラスメイトなのかもしれない。
 渉なら女の子と一緒に見るのだろうと思ったけれど、なんとなく想像はできた。
 自由に動けない以上、特定の女の子と見るというのはトラブルを招きかねない。よって、男子生徒たちと一緒なのではないか。
 いろいろと気を回している渉ならそう考えそうだ、と梓は思った。
 そして梓自身もそのことに、ほっとしてしまう。
 渉がほかの女の子と一緒に、たとえバスケ部だのクラスメイトだの、そういう関係の子たちと複数でも一緒に見ていたら、やきもきしてしまっただろう。そういう意味でも、この光景は安堵できるものだった。
 だから梓も花火に集中することができた。敷かれたシートの上で、友達同士で花火を見る。
 友達同士で見るのだって楽しい。この慶隼学園に転校してきてできた、大切な友達。
 転校してきた梓に良くしてくれて、仲間にしてくれて、助けてくれたりまでしてくれる。
 でも、変わったのは学校や友達だけじゃない。大切な存在はそれだけじゃない。
 ……今年は。
 変わったことを思い出して、次々噛みしめている間に、ふと、頭に浮かんだこと。
 お兄ちゃんと花火大会なんかに行けたらいいなぁ。
 渉とは、普段から買い物や散歩など、あちこち出掛けるほどに仲はいい。
 けれど、なにしろ兄妹という関係になったのは去年の冬なのだ。よって、夏を一緒に過ごすのは初めて。花火大会があるような季節は初めてなのだ。
 梓が「行きたい」とおねだりすれば、一緒に行ってくれる可能性はあった。
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