義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
 しかし拍子抜けした。
 渉はいなかったのだ。
 それどころか誰もいない。
 ……どうして?
 思ったけれど、一瞬だった。
 音もたてずに裏口のドアが細く開いたのだから。
 この状況で、まるで怪談のようなことが起こって梓は心臓が喉元まで跳ね上がったような気持ちを味わった。
 けれどそれは一瞬。
 ちらりと顔を覗かせたのは渉、であった。
「こっちだ」
 ちょいちょいと招かれる。
 梓は、ほっとした。渉に出会えたことや、無事に合流できたことや、ひとに見つからなかったことや、そういうあれそれに。
 しかし直後、どきんと違う意味で胸が高鳴ってしまったけれど。
 渉と出会ってしまった。つまり、この謎の呼び出しの種明かしがされてしまうのだ。
 なにか、悪いことが起こるとはあまり思えなかったけれど、どうしても緊張してしまう。
「う、うん」
 ごくっと唾を飲んで、梓は一歩踏み出した。
 梓が通れるようにだろう。ドアはそのときだけしっかり開かれた。
 通ろうとして、梓はまたどきんとしてしまった。
 うながすようだった。渉の手がそっと腕を握ってきたのだから。
 触れられたそこから発火するようだった。その腕に導かれるようにドアをくぐって外へ出て……。
 まるでそれは、二人の関係を変えてしまう、出口へ続くドアのように感じてしまった。
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