義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
夜を二人で
「悪かったな、こんな」
梓を無事、だろう。外に連れ出して渉はまずそう言った。
「危ないことはするなよ、とか言いながら……矛盾してるよな」
気まずそうだった。自分で言っておきながら、と言ったとおりなのだから当然だろう。
でも梓はすぐに首を振った。
「ううん。お兄ちゃんと一緒なら危ないはずがないもん」
それは梓の渉に対する信頼を表す言葉だった。
けれど渉は小さく呟いた。梓に聞こえるか聞こえないか、かすかな声で。
「お兄ちゃん、か」
一瞬、空気が止まったように感じたけれど、すぐに元通りになった。
「行こう」
渉は再び梓に手を伸ばした。今度はこれまでの比ではなかった。
渉が触れたのは、梓の手であったのだから。大きな手にすっぽり包まれてしまう。
どくっと心臓が高鳴って、今度はおさまるはずがなく、どくどくと速く鼓動を刻む。
腕を握られたときの比ではなく、手が熱い。やけどでもしてしまいそうだと感じた。
「ど、どこに、行くの?」
やっと言った。この胸の鼓動と、きっと熱くなっている顔をごまかしたくて。
こんなこと、渉には筒抜けだろうけれど。なにしろ手を繋がれてしまっている。
けれど落ちつけるはずがないではないか。
「……いいところ、だよ」
数歩先を歩いている渉は、ちょっと梓を振り返って笑みを浮かべた。
その笑みは優しいものだったのに、どこか固いような気がするもの。
いいところ、とは。
梓はもっと疑問が深まってしまったのに、渉はそれ以上の説明をしてくれなかった。
おまけに今までにないようなことに、それからは沈黙だった。
初めて会ってから、そう、慣れない慶隼学園まで遠くから通学していた時期の梓を、駅まで毎朝迎えに来てくれていた頃。
そういうときだって、渉は沈黙などしなかったのだ。
梓がうまくしゃべれなくいても、それをフォローするように、あれこれしゃべって、ときには質問をしてきて、梓がしゃべりやすいようにしてくれた。
優しい言葉で、優しい声で。
でも今はそれがない。
おかしい、と思ってしまう。
いや、ここまでのできごとがすでに相当おかしいのだが。
梓はそれについていくしかない。
梓を無事、だろう。外に連れ出して渉はまずそう言った。
「危ないことはするなよ、とか言いながら……矛盾してるよな」
気まずそうだった。自分で言っておきながら、と言ったとおりなのだから当然だろう。
でも梓はすぐに首を振った。
「ううん。お兄ちゃんと一緒なら危ないはずがないもん」
それは梓の渉に対する信頼を表す言葉だった。
けれど渉は小さく呟いた。梓に聞こえるか聞こえないか、かすかな声で。
「お兄ちゃん、か」
一瞬、空気が止まったように感じたけれど、すぐに元通りになった。
「行こう」
渉は再び梓に手を伸ばした。今度はこれまでの比ではなかった。
渉が触れたのは、梓の手であったのだから。大きな手にすっぽり包まれてしまう。
どくっと心臓が高鳴って、今度はおさまるはずがなく、どくどくと速く鼓動を刻む。
腕を握られたときの比ではなく、手が熱い。やけどでもしてしまいそうだと感じた。
「ど、どこに、行くの?」
やっと言った。この胸の鼓動と、きっと熱くなっている顔をごまかしたくて。
こんなこと、渉には筒抜けだろうけれど。なにしろ手を繋がれてしまっている。
けれど落ちつけるはずがないではないか。
「……いいところ、だよ」
数歩先を歩いている渉は、ちょっと梓を振り返って笑みを浮かべた。
その笑みは優しいものだったのに、どこか固いような気がするもの。
いいところ、とは。
梓はもっと疑問が深まってしまったのに、渉はそれ以上の説明をしてくれなかった。
おまけに今までにないようなことに、それからは沈黙だった。
初めて会ってから、そう、慣れない慶隼学園まで遠くから通学していた時期の梓を、駅まで毎朝迎えに来てくれていた頃。
そういうときだって、渉は沈黙などしなかったのだ。
梓がうまくしゃべれなくいても、それをフォローするように、あれこれしゃべって、ときには質問をしてきて、梓がしゃべりやすいようにしてくれた。
優しい言葉で、優しい声で。
でも今はそれがない。
おかしい、と思ってしまう。
いや、ここまでのできごとがすでに相当おかしいのだが。
梓はそれについていくしかない。