義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
 今、渉の手の中にいるのはホタルではない。
 けれど渉にとっては、ホタルの放つ優しい光があるようだと感じてくれているのだろう。
 そんなことすら伝わってくるし、わかってしまう。
 梓が理解しているのも、あちらに伝わったのだろうか。
 渉が、ふと顔を上げるような気配がした。
「ホタル、きれいだな」
 梓も顔を上げた。
 ちょっとだけ横へ首を向けると、黄色の光がさっきと同じように、ついたり消えたりしながら漂っている。
 さっきと同じ、だけど。
 美しさはまったく違っていた。
「……うん。とっても」
 梓の返事は同じだった。
 けれど違う意味だと、あのときより深くだと伝わってくれただろう。
「ホタルの光は夏が終われば消えるけど、お前への気持ちは消えないよ」
 渉はそんなふうに言ってくれたから。
 優しい黄色の光が胸の中に落ちてきて、やわらかく光っているようだった。
 お腹の中があたたかいような錯覚すら覚える。
 それほど優しくてあたたかな気持ちを感じたのだ。
 夏はまだ続く。
 ホタルだって、まだ光り続けているだろう。
 けれど季節が進んで秋になっても、渉の言ってくれたのと同じ。
 あの優しい光は胸の中にある。
 ずっと穏やかな日々が続くわけはない。
 ときには波乱もあるだろう。
 それがトラブルなのか、喧嘩なのかはわからない。
 そんなふうに、ついたり消えたりすることはあるだろう。
 けれど光はしっかり捕まえたから。
 胸の中にずっと、ずっとあってくれるだろう。
 お兄ちゃんで、先輩で、そして大好きなひと。
 輝く光はひとつではない。
 けれど、どれもが梓のそばで、心の中で光り続けてくれる、なにより優しい光なのだ。
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