義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
「遅くなっちまったな」
 そっと体を離されたあと、渉は言った。
 離されたものの、間近でしっかり目を見つめてそう言われる。
 優しい瞳に見つめられて言われれば、やっぱり胸はどきどきとしてしまうし、きゅんと甘く締め付けられるのだけど、今はその感覚を感じられることが嬉しい。
「……そうだね。でも夜じゃないと見られなかったんでしょう」
「そうだ。暗くなってからじゃないと、ホタルは活動しないから」
 梓は微笑んだ。胸が甘くてちょっと恥ずかしかったけれど、頑張って微笑む。嬉しい、という気持ちは言葉にしても伝えたい。
「ありがとう。素敵なものを見せてくれて」
 梓の気持ちは伝わっただろう。
『素敵なもの』
 それはホタルの光だけではないということ。
 渉からの気持ちという、『素敵なもの』だ。
「ああ。一緒に見てくれてありがとう」
 ふ、と笑って、もう一度顔を近付けられた。
 梓の心臓が、どくんっと跳ねる。今度はしっかりと、なにが起こるかを認識してしまったゆえに。
 でもその高鳴る心臓も心地いい。
 どくどくと跳ねる心臓を抱えながら目を閉じた。
 今度は少しだけ長かった。渉の大きくてやわらかく、あたたかな手がそっと梓の頬を包んで。
 くちびるがひとつに重なった。ほの甘いような気のする、二度目のキス。
「……帰ろう。送るよ」
 優しいキスをくれたあと、渉は再び梓の手を握ってくれた。
 離さない、というようにしっかりと。
 この手はきっと、自分をずっと捕まえていてくれるだろう。
 それはもう、『お兄ちゃん』としてのものだけではない。
 いくつもの『好き』が詰まった、とても大切で優しい気持ち。
 大切に思う気持ちなんて、ひとつでなくていい。
 そんな気持ちのたっぷり詰まって、伝えてくれる優しいこの手とずっと繋いでいける。それは確かなことなのだから。
 梓はそっと弱く、でも確かな力を込めて、その手を握り返す。
 離さない、と自分からも思う気持ちをそこから伝えたくて。
 繋いだ手はあたたかかった。心の中の光がそこへ移ったように、優しいぬくもりを伝えてくれた。


(完)
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