義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
「梓」
「なに?」
 名前を呼ばれて、普通に答えたのだけど渉に手招きをされた。
「ちょっと、こっち来い」
「? うん……っ!?」
 渉に招かれるままに近付いたのだけど、直後、梓は言葉が止まってしまった。渉の手が、不意に頭に触れたので。
 え、なに、突然!? 
 頭を撫でられ、てる……?
 一瞬にして思考が煮え立ってしまった梓とは逆に。
 渉は特に変化のない優しい目をしている。あたたかみのある濃い色の瞳。そんな瞳が間近で見られることに心臓が飛び出しそうになってしまう。両方から顔が一気に熱くなってきた。
 でも頭なんて撫でてくれているというのにこんな、なんでもない顔をされているのはどうして。
 さわさわと髪に渉の手が触れる。こんなふうに男の子に触れられたことはなかった。
 煮立った思考から移ったように胸が熱くなる。
 渉の手は大きくてあたたかかった。お風呂に入ったからだろうか。ほかほかと高くなった体温が直接伝わってくる。
 いったいどのくらいの時間だったのか。
 おそらく数秒だったのだと思う。
 けれど梓にとっては心臓が速く打ちすぎてとまってしまうかと思うほど、長い時間だった。息を詰めすぎて苦しい。
 それが解けたのは、渉が、ふっと笑って「取れたよ」と身を引いたときだった。
 取れ、た?
 梓はきょとんとしてしまう。渉の言葉の意味がわからなかった。
 そんな梓をどう思ったかわからないが、渉は手を差し出した。梓の髪に触れていた手を、だ。
「花なんてくっつけてきて。どこ通ってきたんだ?」
 花?
 ……え、花?
 渉の手を、梓はぼうっと見た。
 そこには薄紫の花びらがあった。確かに花であるようだ。
< 15 / 128 >

この作品をシェア

pagetop