義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます～たくさんの好きをあなたに～

「これ、藤の花だな。季節の花をくっつけて帰ってくるなんて、風流だな」
　渉はちょっと楽しそうであるともいえる目で、てのひらの上の薄紫の花びらを見た。
　数秒、その様子を見守ってしまったけれど。
　不意に緊張が解けた。しかし今度は違う意味で恥ずかしくなってしまう。
　渉は髪についていた花びらを取ってくれただけだったのだ。
　なのに撫でられた、なんて誤解をしてしまって。
　再度、顔が熱くなるのを感じた。
「えっ、あ、ああ！　今日、公園の……藤棚が綺麗だからって、友達と！」
　わたわたとしてしまったけれど、梓の動揺は渉に「よくわからない」という顔をされた。こんな、顔を赤くして動揺してしまっている姿を見られるのも恥ずかしい。
　色々なところからの恥ずかしさから消えてしまいたいくらいだ。
「そうだったのか。どこの公園なんだ？」
「え、ええとね！　学校の裏の……あっ！　わ、私ももうお風呂に入るね！」
　一応質問には答えたものの、これ以上、渉の前にいるのは恥ずかしすぎた。
　よって、じり、と後ずさった。渉はやはり、ちょっと首をかしげたけれど引き留めることはなかった。
「ああ。今、空いてるだろ。父さんが帰ってくる前に入ったら？」
「そうする！」
　ぱっと身をひるがえして梓はリビングをあとにした。ばたん、とドアを閉めて、廊下に出る。一人になって、はぁぁ、とためいきをついてしまった。
　生徒会についての話のはずだったのに、藤の花びらと、それがもたらしたもので全部吹っ飛んだような気がした。
　渉はあんなことをしておいて、なにも気にした様子がなかった。それにも困ってしまう。
　こういうことは慣れているのだろうか？
　学園の王子様なのだから、当たり前かもしれない。女の子にも優しいのだから。
　それとも、妹だから気にせず髪にも触れてくれたのだろうか。花びらを取るためではあるが。
　しかし梓が「撫でられたのか」と思ってしまうほど、優しい手つきで。
　そしてもうひとつ気になった。
　妹だからしてくれたのかもしれない。花びらなどくっつけていたなんて子供のようだと。
　でも、こういうことをクラスなどの女の子にもするのだろうか？
　それは、…………。
　梓はちょっと考えてしまって、また顔が熱くなってしまう。
　自分だけなら良かったのに、と思ってしまって。
　そんなことはあるはずがない、と自分に言い聞かせても、渉の触れてくれた手が優しくてあたたかかったこと。それはしっかり心に焼き付いてしまった。