義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
「……うん」
 やっと頷いた。しかしすぐにこれだけではたりないと気付く。
 自分もちゃんと言わなければ。
「気遣ってくれて、ありがとう」
 ぺこりとおじぎをした。梓の抱いた不安が消えたことは伝わってくれたらしい。渉は微笑んだ。
 今度は困ったように、なんて顔ではなかった。安心した、という微笑みだ。
「いいや。妹を守るのも兄の役目だろう」
 渉の言葉はどこまでも優しかった。梓を見つめてくれる目も優しい色を帯びている。
 梓も微笑んだ。渉のあたたかい気持ちが胸に伝わってきて、勝手に笑みを浮かべさせていたのだ。
「でもそういう設定にしたからなにも起こらない保証はないから……。なにか、変なことをされたりしたら言えよ」
 付け加えてくれたこと。それはやはりちょっと不安だ。
 誰がどう思うかなどわからない。でもそれは今から心配しても仕方がないことなのだ。
「う、うん、そうするね」
 それでこの話はおしまいになった。梓はローテーブルに置いていた自分のマグカップ、ピンク色で、うさぎのイラストが描いてあるそれを持ち上げる。中身をひとくち飲んだ。
 中の飲み物が紅茶なのはわかっていたけれど、口の中にふわっと桃の香りが広がった。
 梓気に入りのフレーバーティーだった。渉はもう、そういうこともしっかり把握してくれている。
 本当に優しいお兄ちゃん。
 梓の胸はそこからもあたたかくなってしまう。
 そのあとは学校のほかの話なんて何気ない雑談をして……そのうち階下からお母さんの声がした。
「ただいまー。二人とも、帰ってるの?」
 梓と渉は顔を見合わせた。夕ご飯のしたくをする時間だ。
 なんだか特に理由もなく笑ってしまった。でもこれは幸せと安堵の微笑みだ。
「母さんが帰ってきた。夕飯の準備、しよう」
「そうだね。今日は私がするよ」
「そうか? じゃあ三人は人手が要らないだろうから……俺は風呂の用意でもするかな」
 言い合いながら、カップをトレイに乗せて部屋を出る支度をする。先に立ち上がってドアを開けて廊下に出た渉が「帰ってるよ。おかえり」とお母さんに答えた。
 そのあとを追いながら、梓はあたたかい気持ちになっていた。
 確かに渉は自分の家族なのである。それは血の繋がりは関係ない。
 一緒に暮らして、信頼し合って、あたたかいお茶を飲んで……このあとおいしい夕ご飯を一緒に食べる、立派な家族だ。
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