義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
 梓は友達同士でカラオケに行くのはまだ数回目だった。
 埼玉に住んでいた頃はお母さんが許してくれなかったのだ。危ない、とか、なにがあるかわからないから、とか。高校生になったらね、と言われていた。
 だからお母さんと一緒に行くとか、親せきやいとこと一緒に行くとか、そういうときしか行ったことがなくて。
 でもこの学校の子は中等部の生徒も、なんのためらいもなく、友達同士でカラオケやゲームセンターに行くのである。
 初めて知ったときはおどろいた。都会だからそうなのだろうか、と思ったものだ。実際そうなのだろう。
 そしてそのとき、一緒に行こうと誘われたので、ちょっと悩んでお母さんに相談したのだ。無断で行くわけにはいかない。
 行きたかったけれど、絶対「ダメよ」って言われるだろうな。
 そう思っていたのに、お母さんはちょっと顔をしかめただけで、そして少しの条件をつけただけで、許してくれた。
『お友達の女の子だけで、三人以上で行くこと』
『行くときは誰と一緒に行って、何時に行って、どのお店に行って、何時間いて、帰るのか。事前に報告すること』
『帰る前に電話すること』
 そんなふうに約束した。
 友達たちに比べたら確かに厳しいし条件は多いのだろう。
 けれど、梓にとってはどれも簡単なことであったし、それを守れば友達たちと一緒に遊べるのなら、まるで苦痛ではなかった。
 それに危ない目にあいたくもなければ、お母さんに迷惑をかけたくもないのだから。
 梓は毎回、それをしっかり守っていた。なのでお母さんにこのことで怒られたこともない。「あまりひんぱんに行ってはだめよ」と言われるけれど。
 だから、カラオケの時間が終わるまであと一時間弱。お店を出るときには電話をするつもりだった。
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