義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
 今日は渉はいなかった。
 正しく言えば、先程まではいた。しかし一時間ほど前に出ていってしまったのだ。
 先生との打ち合わせに行くのだそうだ。会長も一緒に。
 女子副会長の金糸先輩が残ったのは、梓たち、後輩の作業統括に、だ。なんでも分担作業。
「打ち合わせって、遅くまでかかるんでしょうか」
 下校時間までもう少しある。それまでの小休止としてジュースを飲みながら、雑談になった。
 その中でふと、一人の女子生徒が言った。梓は彼女をちらっと見る。
 二年の女子であった。梓にとっては生徒会でしか関わりのない子である。
 一応、先輩ではあるし、敬語などは使うのだけど、活動の指示などはすべて役職のある先輩からだ。なので、あまり上役という関係ではない。
「そうねぇ。下校時間までには終わると思うけど」
 金糸先輩は自分も缶ジュースを飲みながら何気なく、という調子で答えた。
「そうなんですね」
「なにか用事があるの?」
 それも何気なく、ではあっただろうが、聞かれて途端に彼女は気まずげな顔になった。缶を持った手がそわそわとする。
「いえ! ただ、……あ! ちょっと小鳥遊先輩に見てほしいところがあって!」
 なにか言いかけて、すぐに違うことを言った。
 それは多分、本題ではなかったのだろう。
 けれど金糸先輩が追求することはなかった。にこっと笑う。
「そうなの。でも今日は間に合わないかもしれないから……明後日にしたら? 小鳥遊くんは明後日なら特に外に出る用事はないはずだから」
 金糸先輩は「私が見ようか?」とは言わなかった。後輩の言ったことがまるっきり本当だとは思わなかったのだろう。そしてそれであれば「自分が」と言うのは無粋だと察したはずだ。
「そうなんですね。じゃあ……そのときに質問させてもらいます」
「そうするといいわ」
 この話はこれでおしまいになった。雑談に戻る。
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