義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
 ゲームをはじめる前に、お湯溜め設定をしてちょうどいい量のお湯を溜めていた。
 そろそろお母さんやお父さんも帰ってくるのだ。みんな、汗をかいて帰ってくるから早く入りたいだろうと思った。それで早めにお風呂の支度をしておいたのだけど、それは良いことだったようだ。
「そうか。じゃ、悪いけど先にもらうな」
「うん、どうぞ!」
 梓は脱衣室の床にスポーツバッグを置いた。渉はそのまま入るかと思ったのだが、「いったん部屋に戻ってから入るよ」と言って、廊下の奥へ歩いていった。階段をあがっていく。
 梓は「うん」とそれを見守って、自分はリビングへ向かった。
 ゲームをそのまま放り出してしまったことをやっと思い出したのだ。リズムゲームなどではないから、途中で放ってもあまり影響はないけれど。
 リビングのソファに戻って、ぽすりと座る。かたわらに放ってあったスマホを手に取る。ログアウトしてしまっていたので、再びゲームを起動した。
 途中で終わっちゃった。でもお兄ちゃんのほうが大事だからね。
 当たり前のことを思って、でもそれはまったく『当たり前』ではない、と噛みしめてまた嬉しくなった。
 家族がいて、一緒の生活ができる。それを『当たり前』と思ってはいけないのだ。大事にしなければいけないこと。
 スマホをぽちぽちとタッチしながらゲームを進めていたけれど、ふと思い当たった。
 お風呂のお湯は溜めた。けれど入浴剤を入れるのを忘れていた。
 夏なので爽やかな『森林の香り』というものを最近よく入れる。家族みんなのお気に入りなのだ。
 入浴剤を入れると、肌にいいだけでなく、香りなどからリラックスもできる。なので特にあたたまるべき冬以外でも、大体毎日入れるのだ。
 ああ、いけない。入れておいたほうがいいよね。
 梓は再びスマホをソファに置くことになる。
 お兄ちゃんが入る前に、急いで入れておかないと。
 よって、脱衣室へ再び急いだのだけど……どうやらそれは、少し遅すぎたようだったのだ。
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