義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
 片想いをしている子は「あんなことが起こったらいいなぁ」とうっとりと話すし、たとえば雲雀などは「小鳥遊先輩にあんなことされちゃったら死んじゃうかも」なんて頬を押さえるのだった。
 梓の友達の範囲では、まだ彼氏がいる子はいないけれど、片想いをしている子は多かった。
 恋の話は女子の間では数年前、梓がまだ小学生の頃から定番の話題だった。
 中学生になってから、『少しだけ好きな男子』はできた。
 けれど『少し』だったので、転校が決まったときも、もう会えないことに寂しくはなったけれど、特に告白などをしようとは思わなかった。
 だって恥ずかしいではないか。
 「あなたが好きです」と伝えるなど。とても勇気が出ない。
 だから、周りで「好きなひとに告白した」なんて話を聞くと感心してしまうのだった。
 なんて勇気だろう。カッコよすぎる。
 でも、そのひとのことがとっても好きだからなんだよね。
 勇気を出したいくらいに好きなんだよね。
 梓はそんなふうに思って、そういう気持ちはとても素晴らしいものであるし、自分もいつかそのくらい、大好きになれるひとができたらいいなぁ、と思うのだった。
 今のところ、梓にとって『大好き』といえる男のひとはお兄ちゃん、渉だったけれど。
 ただ、これは違うだろう。
 だってお兄ちゃんなのだ。血が繋がっていなくても兄妹なのだ。彼氏とか、恋人とか、そういう関係はあり得ないと思う。
 でもお兄ちゃんのことが好きなのは確か。
 じゃあ、恋とはどう違うんだろう。
 時々、そう考えてしまって、梓はよくわからなくなるのだった。
 恋とは。
 一応、知っている。
 そのひとで心がいっぱいになって、近くにいたらどきどきして、近くにいなくてもつい視線で追ってしまったりする。
 そういう気持ちだ。片想いをしたことはあるので、起こったことは、なくもない。
 そういう、『恋をしたら起こる気持ち』について、ひっかかることがあった。
 渉のことで心がいっぱいになること。たまにはある。
 なにか、先日あったバスケの試合の前とか。渉の活躍を想像して、そればかり考えてしまった。
 近くにいたらどきどきすること。これもたまにはある。
 一緒に家で過ごしていることや、一緒に登校するときは、もう緊張したりしない。
 でもたとえばリビングで勉強をしているとき、真剣な顔をしている姿を見て「カッコいいなぁ」とどきどきしたり。
 勉強を教えてもらったときに距離が近付いて、ふわっと香るシトラスの香りに、どきりとしてしまったり。
 そういうことは確かにある。
 視線で追ってしまう、これは一番ひんぱんに起こることかもしれない。
 家では、流石にあまりない。けれど学校では、姿を見かければじっと見てしまう。
 どこに行くのかな。なにしてるのかな。誰と話してるのかな。
 そんなことで心もいっぱいになって。
 ああ、やっぱりよくわからない。
 兄妹として当たり前のような気もするけれど、でもどきどきしたり、気にしたりしてしまっている気持ちは確かにあるようなのだ。
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