義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
「明日でおしまいだからって、気を抜いちゃだめでしょ」
 金糸先輩は腰に手を当てて、少しだけお説教めいたことを言ったけれど、はぁ、と小さくため息をついた。
 金糸先輩は優しいし、人当たりがいいけれど、だめなことはきっちりだめだと言ってくれる性格だ。
 先輩として尊敬するし、こんなふうにひとのことを気遣える女の子になりたいなぁ、という、梓にとっては憧れの存在でもあった。
「おつかいを頼みたかったのだけど、真面目にやってくれてた子にお願いすることにするわ。……小鳥遊さん」
 不意にこちらを見て呼ばれて、梓はどきっとした。確かに自分はしゃべらず黙々と作業をしていたけれど。そしてそれを真面目に取り組んでいたと思われたり、その様子を見てくれていたのは嬉しいけれど。
 おつかいとは。
 またお茶を買ってきてとかそういうことだろう。
 名前を呼ばれたちょっとの驚きのあとにはそう思ったのだけど、すぐそれは吹っ飛んだ。
「バスケ部におつかいに行ってくれない?」
 バスケ部。
 名前が出たところで、すぐにみんな、おつかいの内容、というか種類を察したのだろう。渉について話していた子たちは、一気に残念そうな顔になる。
 でもおしゃべりをして、集中して取り組まなかった自分たちが悪いこともわかっているはず。だから梓がどうこう言われることも、「私が行きたいです」と言われることもなかった。
「小鳥遊くんに確認してほしいことができたのよ。書類を渡してきてくれるだけでいいの。チェックして、明日生徒会のほうに持ってきてもらえたらいいから」
 それは確かに簡単なおつかいであった。書類を持っていって、話しかけるだけでいい。
 でも渉とお近づきになったり、話をしたいと思っている女子にはどんなに魅力的か。
 梓は、真面目に取り組んでいて良かった、と心底思った。
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