義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
「わかりました」
「あまり急がなくてもいいけど、寄り道はしないでね。小鳥遊さんなら大丈夫だと思うけど」
「もちろんです。すぐに戻ります」
 金糸先輩から書類を受け取った。曲がったり汗がついてしまわないようにだろう、クリアファイルに入っていた。
 それをしっかり抱えて梓は、「いってきます」と生徒会室を出た。廊下を歩く。
 バスケ部は確か、第二体育館。
 頭の中に浮かべる。慶隼学園は大きいだけあって、体育館は複数ある。
 けれど基本的に『どの部活がどの体育館で活動するのか』というのはほぼ固定なので、第二体育館で大丈夫だろう、と梓はそちらを目指した。
 廊下を歩くうちに、窓の外が目に入った。今日もいい天気。空は青くて入道雲。芝生は青々している。夏真っ盛りだ。
 クーラーがかかっている建物の中から見るのならむしろ綺麗で良いものだと思える。
 見ながらとことこと廊下を歩いていたのだけど、ある場所まできて、どきっとしてしまった。
 そこは階段近く。数日前に渉と一緒に歩いたところ。
 そして歩いただけではない。急に物陰に引っ張りこまれて……抱きしめられてしまったところなのだ。
 心臓の鼓動がちょっと速くなって、顔も少しだけだけど熱くなってしまう。
 あのときの驚き。混乱。動揺。
 でも確かにあった嬉しさ。渉にそんなふうにしてもらったこともそうだし、触れて感じられた感触や気持ちもそうだし、幸せ、だった。
 そのあとの会話を思い出すと、心はちくっとするけれど。やはり、『好き』の意味がわからなくなってしまうし、それは『渉からはどういうふうに好いていてもらえているのか』という意味での疑問もあるからだ。
 だけど今、それを考えても仕方がない。今は一人なので急に抱きしめられて混乱することもないし、そうだ、じっくり考えればいいんだ。そうすればきっといつかわかるだろう。
 梓はそう思っておくことにして、その場所は気にしないように努めて階段へ向かった。
 とんとん、とリズムよく降りる。一階に降りて、体育館へ続く渡り廊下へ向かっていった。
 そこでなにを見てしまうのかも知らないままに。
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