義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
 それだけならちょっと恥ずかしくなりつつも「邪魔したらだめだよね」なんて思って、ちょっとどきどきはするだろうけど、すぐにその場を離れただろうに。
 梓が廊下の角の壁に背中を預けて動けなくなってしまったのは、そのうちの一人が渉だったからにほかならない。
 一瞬見えた渉は、バスケの練習着姿をしていた。バスケ部の活動中だったらしい。
 相手の姿は良く見えなかった。十中八九、女の子だろうけれど。
「ごめん」
 不意にはっきり聞こえた言葉に、梓は心臓が飛び出すかと思った。痛いような錯覚すら覚える。
 渉の声。ごめん、という言葉。
 すぐには理解ができなかった。
 でもやはり鈍いのではないのだ。すぐ思い当たった。
 渉は誰かに告白されていたのだ。
 梓が感じ取ったのは、そこから漂っていた緊張感だったのだろう。そんなもの放っておけばよかった、なんて今更思う。遅すぎたけれど。
 そして渉の言った一言。
『ごめん』
 当たり前のように、告白を断るという意味だろう。
 どくん、どくんと心臓が鳴る。冷えたような心臓は、ただ、嫌な感触ではなかった。
 告白されていたというのはショックだ。
 でも断るのだ。お付き合いするのではないのだ。
 それが染み込んできて、梓はほっとしそうになった。
 けれど、次の渉の言葉は梓のその、ほっとしそうになった気持ちを蹴散らした。
「……好きなひとがいるんだ」
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