義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
親友とアイスココア
 体育館の入り口まできて。梓はやっと立ち止まった。
 はぁはぁ、と息切れしていた。
 普段、体力はそれほど少なくないから、この程度走っただけで息が切れるのはおかしい。
 けれど心臓は百メートルも走ったように、ばくばくしていた。息苦しい。吐き気にも似た気持ち悪さでくらくらとした。
 さっき見たこと。聞いてしまったこと。
 夢だったのではないかと思いたかった。
 けれど無理だった。自分のこの体の反応が本当のことだと示していて。
 でも涙も出なかった。まだそこまで至っていないのだ。心も体も思考も。
 どうしよう。
 立ち尽くしてぼんやりしてしまった。
 もう、自分がどうすべきなのか、どこへ行ってなにをするべきなのかもわからなかった。
 ぼうっとしていたところへ、不意にぽん、と肩になにかが乗って、梓は違う意味で心臓が喉から飛び出しそうになった。
 まさか、渉に見つかってしまったのでは。心臓が凍り付きそうに冷えたけれど、かかったのは違う言葉だった。
「梓ちゃん? どうしたの?」
 数秒して、梓はやっと声をかけてきた相手が誰なのかがわかった。
 振り向くと、そのとおりの人物がそこにいる。
 楓だった。さっきちらりと見た、バレー部の練習着姿だ。
「通りかかったら梓ちゃんが見えて……なんか様子がおかしかったから……。気分でも悪いの……っわぁ!?」
 心配そうに見つめてくれる楓。
 今その存在も、かけてくれた声も、やってきてくれたことも、すべてに安心できた。
 梓の心の中の氷が一気にとけた。
 それは喉の奥の熱い塊も溶かして、目から勢いよくあふれさせた。
「楓ちゃん! どうしよう……!」
 勢いよく楓に抱きついていた。
 部活中なのだ。ふわっと汗の香りがした。
 けれどそんなものは気にもならない。
 楓は梓の様子がおかしいことにも、泣き出したことにも、抱きつかれたことにもおどろいたようだ。当たり前ではあるが。
 それでも、動揺した声だったけれど言ってくれた。
「な、なんか、あったんだね……? ここじゃ多分あれだから……休憩室に行こう」
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